2008年10月19日

虚像の檻。

男は何故ここにいるのか判らない。

気がついた時にも既に此処に居たからだ。

この場所は実に何も無い。

何も無いが心地が良い。

そして気持ち悪い。

男は理由を考える・・・考えるが途中で思考を止めてしまう。

此処に居る事によって何もかもが無駄に思えるからだ。

浸み込むように水滴がポタポタと落ちてくる事がある。

それは男にとって恵の雨だ、必死に手で集め啜る。

喉を潤す甘美な味、しかしそれは猛毒に匹敵するものでもあった。

水滴は欲しい時に在る訳ではないのだ。

男は渇きを潤す為に必死に探す、探すが見つけることは出来ない。

男は思う。
「無いのなら作り出せば良い」

男は懸命に作り出そうとするが夢が叶う事はない。

ありとあらゆるものを試した・・・自分の血すら飲んでもあの味には叶うものが出来ない。

そして男はまた諦める。

待っていれば必ず水滴は浸み込んでくると思い込み・・・

男は知らない。

此処は自分が作り出した世界だという事を。

解説
タグ:小説
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2007年12月19日

ある男の話。

走るただひたすらに走る男。

振り返ることもせずに一心不乱に走り続ける。

まるでそれが自分の宿命のように。

ある日男は立ち止まった。

ふと休みたくなったのであろう。

男は始めての休みにする事が無かった。

ただ走り続けていた男にとって何をして良いか判らなかったのだ。

何故自分が走り出したのだろう?その原点を思い出そうとする男。

頭が混乱して座り込み自分の半生を反芻する。

しかし思い出せるのはただ走っていた事実だけ。

もっともっと前の事を思い出そうとするがモヤがかかったようにはっきりとしない。

苛立ちが心を支配していく。

ただ判っているのは走り続けないといけないと言う事。

でももう自分がその事に疲れてしまっている事を知っている。

走るのをやめた後自分は如何すればいいのだろうか?

それだけが頭に渦巻いている。

だがそれでもまだ走り出す男。

走る事だけが存在理由なのだろうか?と走りながら考え始めた。

答えは見つからず男は今日も今日とて走り続けている。

しかし男はいつか走るのをやめるだろう・・・それの時は答えを見つけ時か、それともその問題にのまれた時に・・・。

どんあ結末が待っているのかは誰にも判らない。
タグ:小説
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2007年04月18日

BABEL−バベル−

僕が幼かった頃世界は見渡す限り青と緑の世界が続いていた。

そんな世界で僕は夢中で駆け回っていた。

友と大いに笑い、泣き、楽しみ、遊んだ。

いや友なんか関係無くいろんな人々と共有した。

そんな毎日が続くと僕は信じていた。

でもそんなものはただの幻想でしかないと言うことを知った。

今ではほとんど灰色と黒の世界しか見えない・・・。

人々の心の中もそう。

隣人ですら見ず知らずの人間である。

街ですれ違う人ははいつも人の事を睨みつけて無言で通り過ぎていく。

誰もが疑心暗鬼の中を生きてる。

何故そんな風になってしまったのだろう?

同じ言葉を使うのに今ではその言葉すら通じなくなってきている。

昔神様の怒りに触れ一つであった言葉が幾つもの言葉に分断された。

しかし分断されたといっても同じ言葉を話す者達はお互いを理解していた。

でも今は・・・。

ああ僕はこの混沌が広まっている世界に今生きている。

混沌が世界を覆ってしまう時世界は何を目撃するのだろう?

世界が滅びへと向っている・・・。

僕に何が出来るのだろう?

見守る事しか出来ない僕はただただ深く沈んでいく・・・。




長い前置きでしたが本題です

最近TVで直接ニュースを見る事が少なく自分の情報の疎さに愕然とした・・・。

親としてのモラルなどより人として如何なものだろう?

この加害者の父親は自分の子がしでかした事をちゃんと認識しているのだろうか?

子供のただの悪戯としか思っていないのかも知れない。

だからこそ被害者の母親に対して脅すなと言えるのだろう。

それに自分の子供がそんな事をする訳が無いと思っているかも。

どちらにせよ、自分の子がしでかした事の責任から逃げようとしているようにしか見えない!

子をそんな風にしてしまったと言う世間の風当たりから逃れる為に被害者の方が悪いと言う風にしてしまえば良いと感じたのだろう・・・。

まあ何にせよ今回の対応を間違えてしまった為この加害者の家族はより自分たちの立場を悪くしてしまっただけ。

もっと紳士に対応していればこんなにも世論を敵に回すことは無かっただろう。

蛇足であるが生活的に余裕もあるのに給食費を払わない保護者も然りである。


今の親の在り方や責任と言うものをもっと考えなければいけない。

それにしても昨日の長崎市長銃撃の話といい今回の話といい日本は終末へと加速している・・・。
posted by 成田仁齋 at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月28日

愚か者の話。

ブクブクと体が闇に沈んで行くのが感じられる。
もがいても這い出る事が出来ない、より一層闇が絡んで動けなくなる。
闇は本当に闇に身を潜ませている。
何処かに消えたと思ってもすぐ隣に息を潜ませて待っている。
獲物が堕ちて来る事を・・・。
そしてじわじわと心を侵食する。
闇が心の隙間を狙って侵食してくるのか?
それとも心が闇を渇望して招き入れているのか?
心が闇に犯されている事の方が光を求めるより簡単だからかも知れない・・・。
居心地が良いのだろう。
でも僕は知っているそこに自分が存在してはいけない事を。
一度浸かってしまったら永久に抜け出す事が出来なくなる事を本能が伝えてる。
でも闇の誘惑に負けてしまいそうだ。
いや本能が拒否と同時に渇望している。
矛盾がぐるぐるとイタチゴッコを始める。
それでも結局は終結が訪れる。
どちらかが疲れ果てて止まってしまう。
心が思考を止めてしまう。
体が生きる事を止めてしまう。
僕は「アリとキリギリス」の「キリギリス」なのだ。
楽しい事しかして来なかった、やらなきゃいけない事から逃げて。
愚か者を救う者はいない。
愚か者はただ自分の犯した愚行を後悔しながら倒れるだけ・・・。
時々ふと涙を流して死にたくなるだけ・・・。
そして何も変え様とはしない。
愚か者はそうやって生涯を閉じる。
愚か者は臆病者でしかない。
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2006年06月23日

矛盾領域

何だろう?
此処は何処だろう?

何故此処に僕はいるのだろう?
体に纏わり付くモノが重たい・・・。
沈んでいく何処までも何処までも・・・。
何故沈んでいるのだろう?
思い出せない・・・。

僕の眼に映っているあれは何なのだろう?
あれは空なのだろうか?
水面なのだろうか?

僕は其処を求めた。
いや求めようとしている。
其処から光が見える。
早く辿り着きたい・・・。
光は誰かの手の様だ。
暖かい人の温もりを感じる。
僕はそれを求めていた・・・。

僕は高揚しながら近付いていく。
しかしそれを手にしてしまうと一緒に沈んでしまう事も知っている。
いや違う、それを僕の重さによって沈めてしまう。

触れようとして僕は手を止める。
そして僕は己の身を沈めていく、深く、深く。
眼を瞑ろう、眠ってしまおう・・・。

消え往く意識の中で思い出す。
同じ事を僕は繰り返していた。
他者を苦しめるのならば、僕1人だけでここに居よう。

死すらあるか判らない世界で、僕は見える世界を見守ろう。
この世界で僕は祈る。
彼らに幸せが訪れる事を。

そう願いながら僕の意識は泡と同じように消える・・・。

・・・僕も其処に行きたい・・・。
posted by 成田仁齋 at 20:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月11日

the blue sky〜case1〜完結編

前編中編を先に読む事をお勧めします



 僕の運転する車が、二台ぎりぎりすれ違える細い道に入っていく。あいも変わらずボーっとしながら運転していた。左側の歩道に人が歩いている。何気にその人を見ると僕は運転している事を忘れてしまった。その人物は朝都由加奈だった。
 水溜りを避けきれずに走ってしまい、水飛沫が彼女を襲ってします。僕は一瞬何をしたのか判らなくなっていた。反射的に急ブレーキを踏んだ。甲高い音をたてて車が急停止する。ドアを開け放ち彼女に駆け寄る。
 朝都はきょとんとしていたが、眉をへの字にして不機嫌になって行った。彼女は僕に気付いていない様子で近づくとびっくり箱に引っ掛かった様な顔になった。
「あれ? もしかして宇崎君?」
「そうだよ。朝都・・・・・・さん」
「7年ぶりだよね」
 彼女が屈託の無い笑顔で言った。
「それよりもごめん。服大丈夫じゃないよね? どうしよう・・・・・・」
「ひどいよ。私を見つけてワザとしたんでしょ?」
 イタズラっ子ぽく笑う彼女を見ていると心が和らいで行くのが感じられた。何も変わっていないのが妙に嬉しいと安堵した。
「そんな格好で歩かせる訳には行かないし、家まで送るよ」
「いいの? お言葉に甘えて、ありがとう」
 助手席を空けて彼女を導く。僕も運転席に戻り前後左右を確認して車を走らせる。久しぶりに朝都といるせいかハンドルを握る両手に汗をかいている。
「宇崎君って今こっちに住んでいるの? それとも仕事で?」
「春先にこっちに転勤になったんだ。そっちは?」
「私は大学を卒業してすぐにこっちに来たの。あっ!こっちの道に入って。この先に凄い風景が綺麗に見える所があるの」
 社内の会話はこの7年間の事で持ち切りだった。僕の心が悲鳴を上げる。聞きたくないのに聞きたい。心の奥にしまい込んで施錠しようとするがどの鍵も合わない。膨張する言の葉が我慢できずに爆発した。
「あのさ〜朝都さんの大学の先輩、なんて言ったっけ? まあ名前なんていいんだけどどうなったの?」
 彼女の顔を恐れ恐れ顔を盗み見ると柳に風といった表情をしていた。
「柏木さんの事ね? ・・・今お付き合いしてるよ。あの時宇崎君が背中を押してくれたから」
 視界が真っ白になった。聞かなければ良かった。そうであれば、あの頃の様に戻れる気がしていた。でもそれはただの幻影、虚像。
 俯きながら彼女は言葉を続ける。
「来週の今日、教会で結婚式を挙げるの。 ・・・・・・ぜひ宇崎君も出席してくれないかな?」
「そっそんな急に答えられる事なんて出来ないよ!!」
 僕は怒鳴ってしまった。訳が判らなくなって錯乱している人の様だった。
「・・・・・・そうだよね。急に言われたって用事が入っているのが当たり前だよね。ゴメンね」
「いや、そう言う訳じゃ・・・大きな声出してごめん」
 会話はそれで終わってしまった。車の中で雨雲が広がっているかのようだった。朝都はずっと俯いていた。さっきの彼女の言葉が本当だと信じざるを得なかった。彼女の左薬指にはダイヤモンドらしき宝石が付いたシルバーリングがはめられていた。これ以上考えるのはやめよう。
「宇崎君そこを左に曲がると駐車スペースがあるの」
 彼女の言うとおりにすると街並みが見渡せる高い所に出た。車を駐車する。
「来たばかりだからこんな所知らなかったでしょ? 私のお気に入りの場所」
 ドアを開けて朝都が外に出る。その後に僕が続く。彼女が柵ぎりぎりまで近づき上半身を乗り出す。
 「あそこが今住んでいる所。あっちが教会」
 指差した場所にはそんなに高くないマンションと微かに教会らしき物が見えた。教会はほとんど見えないのに想像が出来てしまう。他の男とウェディングドレスを着た彼女が神父の前で聖なる契約結ぶシーンを。頭を振り幻想を払い除ける。
「まだ言ってなかったね・・・・・・結婚おめでとう」
 言ってしまった。この場から消えて無くなりたかった。後悔が高波となって襲ってくる。
「・・・・・・ごめん。アレ嘘だよ。7年間連絡くれなかった罰だよ」
 彼女が空を見上げて言う。
「あの人と付き合うことは無かったよ。ずっと待っている人がいたんだけど雲の様な人だったの。いつも掴もうとすると消えちゃうの」
その言葉が信じられなかった。
「そんなことに気付かないなんて馬鹿なヤツだよ」
「うん。7年間ずっと待ってたよ」
「朝都さん・・・いや由加奈。僕と付き合って下さい」
 言えなかった言葉。遅すぎる言葉。今言うべき言葉。
「君の事が好きだ!!」
 チープな言い方だ。でも素直な気持ち。
「宇崎君、これから一緒に青空を見ようね」
 由加奈が微笑む。それは青空の様な笑顔だった。
                                FIN
posted by 成田仁齋 at 22:48| Comment(2) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月09日

the blue sky〜case1〜中編

 前編はここです


 朝都とは中学以来の知り合いなのだが、親しい仲ではなかった。一人の時に声をかける勇気すらない僕。ただ単に僕の片思い。ある時友人に口を滑らして彼女の事が好きだという事がばれてしまった。彼は冷やかす事はしなかった、ただ一言「そんなんじゃ、後悔するだけだ」と言われた。この一言が頭の中でずっとリバース再生されていた。
 そんな中この日が訪れていた。放課後になって止まずにいる雨。クラスメート達は部活やバイト先へと消えて行く。気付くと僕と同じ帰宅部の友人も姿を消していた。おい、僕を一人にするなよと心の中で叫ぶ。今日はラッキーデーなんだと自分に言い聞かせて、朝都に話し掛けようと話題を探し始める。でも考えれば考えるほど何も思いつかない・・・・・・。窓際の席に俯いて座る僕に急に影が覆い被さって来た。僕は焦って上を見上げると彼女がいつの間にか横に立っていた。心臓の鼓動がやたらと早く、水道の蛇口を限界まで捻った時の様に血液が体中に流れていく様だった。僕は何を話しかけて良いのか判らなくただ彼女の顔を見詰める事しか出来なかった。彼女ははにかみながら微笑んだ。頭の中を除夜の鐘が凄いスピードで連打されている様な錯覚が支配していく、何も考えられなかった。
 ふと朝都が外を見る。
「見て、宇崎くん。 雨が止んだよ」
「・・・あっホントだ」
「ねえ、宇崎君は青空好き?」
「えっ? 青空? う〜ん雨よりは好きかな」
「私、青空が好き」
 彼女の笑顔の横顔を太陽の光が優しく差し込む。僕の二つの眼にはこの光景しか映さなかった。
「青空ってね、なんだか私たちを優しく包んでいてくれるきがするの。嫌な事があっても頑張れって励ましてくれてるみたいなんだ」
「そう言われれば、そうみたいな感じがするね」
「でも良かった、宇崎君も青空を好きで。 雨が好きって言ったらどうしようかと思った」
 彼女が僕の正面に向き直して、窓の外の青空の様な澄んだ笑顔で微笑んでくれた。
 それ以来僕達は話すようになって行った。他愛のない話で盛り上がったり、映画を見に行く中にもなった。でも恋人同士ではなかった・・・・・・。周りからはそう見られていたけど違った。告白する勇気が無かった。告白する事でこの関係が壊れるのが怖かったのだ。彼女と一緒にいられるだけで良かった。青空を一人で独占する事などおこがましいのだ。
 朝都に好きな人が出来たら応援してあげようとも思っていた。彼女の幸せが僕の願いと思っていたから・・・・・・・いやそう自分に錯覚させて逃げていた。
 とうとう終焉の鐘が鳴り響いた。
 2年後お互いに別々の進路が決まり大学に行くようになり、2回生になったころに朝都から相談された。
「宇崎君、サークルの先輩から付き合って欲しいって言われたんだけど如何したら良いのかな?」
 耳を疑った。いつかは言われると覚悟していた事だがこんな急にとは。
「先輩は良い人だし大人って感じなんだ・・・」
「・・・・・・朝都が良いならそれで良いと思うよ」
「じゃあ一回みんなで遊びに行こうよ、宇崎君。そこでどんな人か見てみて」
「ははは、OK、良いよ・・・・・・」
 青空には太陽が必要だった。実際に会った先輩とやらは太陽たる人物だった。成績もよく就職先も大手の企業から声が掛かっている。大人感じなのだがそれでいて人を楽しませる事が出来る少年のようで、家柄もよく父親もある大企業の社長であった。この人と結婚すれば朝都は何一つ不自由なく幸せになると容易に想像出来た。雲の僕には出来ない芸当であった。その夜朝都と二人で食事した。
「あの先輩なら安心できるよ。付き合ってみたら」
「ほんとにそう思う?」
「ああ男の僕が見ても非の打ち所が無いよ」
「・・・・・・そう。わかった」
 そのあと何ともいない静寂が僕たち二人を包みこんだ。食事が終わると二人で歩いてた。外は雲ひとつ無い満月であった。朝都が急に振り返りタクシーを捕まえた。
「ごめん、宇崎君今日これから行くとこがあるから先に行くね」
「そっかわかった」
 彼女が足早にタクシーに乗り込む。その姿は12時の鐘が鳴り響く中走り去るシンデレラに見えた。僕は彼女が立っていた足元に目をやった。雨も降っていないのにアスファルトに水滴の跡がついていた。友人の「そんなんじゃ、後悔するだけだ」と言う声がリフレインしてきて、灼熱の様にたぎっていた。
 これから現在に至る7年間音信不通になっていた。
                             完結編に続く
posted by 成田仁齋 at 21:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月07日

the blue sky〜case1〜前編

 「私、青空が好き」そう言った彼女の横顔がとても印象的だった。僕にとっては彼女が青空であった。僕と言う存在は青空の中に浮かぶ雲である。ただ白いだけの存在だが、澄み渡る青空の中で浮かんでいる事でその存在価値を見出だせたのだ。



 ザァーザァーと雨が降っている。梅雨時期でもないのにうざったい位に。世界を洪水にしようとでも言うか。そんな中僕は車を走らせている。まるで荒波に揉まれる漁船の様だ。
 水溜まりの上を通る度に周りに水飛沫の災害を撒き散らせてしまう。周りに人がいない事に毎回安堵する僕は小心者だろうか。
しばらく走っていると雨が弱くなってきた、そして完全に雨が止んだ。僕は運転席のウインドウから空を見上げた。そこには灰色の雲がみっしりと敷き詰められていた。しかし風が彼らを右へ右へと追い込んで行く。するとカーテンが開けられた時の様に、太陽の眩しさと澄み渡る青空が僕の視界を釘付けにした。
目を細めて光の侵入を防ぐ。段々と慣れるとふと彼女の事を思い出してしまった・・・。



 机やイスが行儀良く並んでいる。なんだか、規律を守る軍隊の整列みたいに見えるのは気のせいだろうか。でも窓の外の1時間前から降り続く雨は、規律を乱してるみたいだった。僕たち二人共傘という盾を忘れて来ていた。朝刊も朝のニュースも100パーセント晴れだと言ってたからだ。でも今日という日を神様に感謝する事になった、彼女との時間を共有する事が出来たのだから。
 彼女の名は朝都由加奈といった。
posted by 成田仁齋 at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月31日

LINE

 「カンカンカン」と音をたてる警報機。
 私の前に遮断機が下りて来る。それはまるで私と世界を隔てる境界線のように見える。
 私は立ち止まり、レール脇に敷詰められた石に目を向けた。
 (あの石と私はどう違うのだろう? 世界の中で、在っても無くてもこの世界は廻っていられるのに......)
 「ガタンゴトン、ガタンゴトン」
 電車の音が段々と近づいて来る。距離は50メートル位だろう。彼らは踏み切りを力一杯走り越そうと、ひたすら前に進むのを躊躇わない。
 私は周りに誰もいない事を確かめた。神様は私の事を認めてくれたようだ。誰もいない踏み切りから一歩踏み出した、初めて歩く赤ん坊の様に。
 「何も考えなくても良いんだぁ〜」
 甘美に打ちひしがれる様な声だった。
 「楽になれるんだ.......痛いのかな?」
 私は知らず知らずのうちに声にしてしまった。それによって一時立ち止ってしまったがまた踏み出した。
 電車は20〜30メートルという距離に迫ってきた。私はバーを潜り抜けとした。しかしそれは突然に聴こえて来た。
 「クゥーン......」
 その音は足元からしている様で、目をやると踏み出した右足に子犬が縋り付いていた。
 「ガタンゴトン、ガタンゴトンガタンゴトン、ガタンゴトン......」
 電車は私の鼻先数センチ前を通り過ぎて行った。恐怖のあまりその場に座り込んでしまう。
 子犬が動けない私の体をよじ登って来る。顔の位置まで来ると顔を舐めてきた。
 それは母親に甘える様に、私を慰める様に。
 ふいに目頭に何かが込み上げて来た。久しく忘れていた感覚。
 私は子犬を抱きしめた。
 遮断機が上がって行く、世界と私を隔てる境界線が消えた。
posted by 成田仁齋 at 21:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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